月の憧憬

日本では月の文化は多種多様にわたり、

日常の生活の中にさまざまな形で浸透しています。

歴のない頃は月の満ち欠けが農事の大切な判断材料で、

満月の時はちょうど筋目になります。特に十五夜の中秋の満月の日は

初穂を供えて秋の収穫を感謝する初穂祭が行われていた事から、

月を崇める信仰とも相まって今日の風習に影響しています。

また、「古事記」や「万葉集」をはじめ「古今集」には

月の名歌が沢山乗っており、最古のものでは、飛鳥時代の文様

「天寿国曼荼羅繍帳」に「月に兎」が描かれています。

日本人に慣れ親しむ「月と兎」は、ここが起源だったのでしょう。

※天寿国繍帳(てんじゅこくしゅうちょう)は、奈良県斑鳩町の

中宮寺が所蔵する、飛鳥時代(7世紀)の染織工芸品。

銘文によれば、聖徳太子の死去を悼んで妃が作らせたといいます。

天の国でも、常に心安らかに月を愛で、そばに私(兎)が常にいるという

想いがあったのでしょうか。

飛鳥時代の染織工芸、絵画、服装、仏教信仰などを知るうえで貴重な

遺品であり、国宝に指定されています。